私の失敗の巻 【Vol.041】
ちょっとした不注意から、ちょっとした無知から、思わぬことが起こるものです
ドアに穴があいた事件

「ドアに穴があいたので、取り替えたい」
こう電話をもらったのは、キッチンとかダイニングルームをリフォームして、そろそろ3年目の清水さんです。ドアに穴があくなんんてどんな乱暴なことをしたのだろうか。まずは訪ねてみました。
ダイニングルームのドアの中ほどのところが、とんかちで強く打ったようにばっさりめり込んでいます。
「どうしてこんなことに」といぶかる私に、「まぁ、そちらの椅子に座ってみて下さい」と言って、食卓イスのひとつに掌でうながしました。指された椅子に私が座ると、今度は清水さんがドアを開けました。するとドアが私の座っている椅子の背もたれの端に、コツンとぶつかるのです。
先ほど私がダイニングルームに入ってきたときは、何ともなかったのに。
「はい。使用していないときの椅子は、テーブルの下に引き込んでおくので、ぶつからないのです」と、清水さん。
家族はぶつかる椅子は、ドアに一番近い椅子、ということを全員知っています。ドアの開け閉めは、そろそろとゆっくり全開にならないようにして開けて、半開き状態ですり抜けて通ることにしているのだそうです。
昨日の日曜日は家族で出掛け、たくさんのお買物をしたそうです。そして大きな荷物を持っていたご主人が、思いっきりドアを“バーン”と開けてしまった。運が悪いことに、いつもは立ち上がったら椅子をテーブルの下に引き込んでおくのに、何故かぶつかる椅子だけ引き出したままだったのだそうです。
清水さんの家の状況から考えると、いつかはこのドアは壊れることになっていたのです。
何よりも椅子とドアがぶつかる様では困ります。
この失敗の理由は2つあります。
第一に、清水さんの家のテーブルを測っていたのに、ゆっくり入るからと思って、平面プランの中に書き込んでいなかったこと。
第二に、食卓イスが両肘ありのアームチェアだというのに気が付かなかったことです。
この2つのことを教訓として、私はプランの段階から、食卓と椅子を書き入れることにしています。勿論、必ず腰を掛けさせてもらうことも。椅子に座ったときの必要寸法は、普通600×600、つまり巾60cm、奥行60cm、アームチェアは奥行70cm、これが1人分です。
建売住宅の新聞ちらしが入ってくると、つい間取図の中に、食卓と椅子を書き入れる癖がついてしまいました。「ああ、このドアは左にずらさないとぶつかる」なんて、ちらしに向かって言ってしまいます。
床下収納庫事件
「この四角は何?」と聞かれて、「床下収納庫よ。」と私は誇らしげに言いました。
家の台所のリフォームの図面を見ながらの、私と義母との会話です。「欲しかったのよ、床下収納庫」と義母が嬉しそうです。
「石井さんちにも長山さんちにもあるの。床下って、夏でも温度は低いんでしょ?ぬか味噌漬けをここで漬けたいと思っていたの。」
結婚してすぐ、夫の両親と同居しました。
そしてすぐリフォームしたのが台所です。なにしろ、嫁(つまり私です)は、住宅設計のプロです。プランは全部私に任せてくれました。プロですから。
床下収納庫は、シンクの前につけました。今まで設計した家と同じ場所です。
8月にリフォームされた台所は、台所からキッチンへと変身した素敵な出来具合です。 ぬか味噌も、床下で低温発酵されておいしくできるし。
リフォームされたキッチンセットを前にして、料理づくりをし始めて「あっ!」思わず声がでました。
「駄目だ、この床下収納庫」
シンクの前に立って洗い物をすると、足元がカタカタと音をたてます。床下収納庫の上蓋(あげぶた)の音です。左足、右足と、作業によって重心が変わります。そのたびに音が出ます。
よく考えると、音が出るはずです。上蓋は、持ち上げるものなのだから。薄く軽くできていて、蓋なので止めてなく、置いてあるだけのものなのです。
「涼しい風が吹いてくるからいいんじゃないの?」と義母が妙ななぐさめをしてくれます。
涼しい風は上蓋の隙間風のことです。
義母が「ぬか味噌漬けを出して」と言ったので、私は洗い物を中止して、床下収納庫の上蓋を開けてシンクの前に立て掛けました。
コンロの前に這いつくばって、漬物樽の中からきゅうりと、茄子を取り出します。頭の上では、コンロに載せたシチューが寸胴鍋の中で煮えたぎっています。
“熱いしずくが落ちてこないといいなぁ”“揚げ物をやってなくてよかった”“床下収納庫って怖いなぁ”と、思わず考えてしまいます。
リフォーム調査の結果から

実はちょうどこの前に、ある研究所が多くの主婦を対象に、面接調査をしました。
その結果、主婦が家の中にいる時間の半分はキッチン内にいるということが発表されました。
だからキッチンを一番目にリフォームしたのです。
私も家にいる時間の半分は、キッチン内にいます。しかし、一番長くいるところは、シンクの前なのです。
煮物をしても、コンロの前にじっと立っていることなんてありません。俎板の上で切っているか、洗っているかの下準備、後片付け。いつも水を相手にしているのです。
料理づくりをしながら、ぬか味噌を取り出してすぐ洗える場所に床下収納庫を取り付けたら、どんなに便利かと思ってつけたのに、実際は上蓋を開けたら、シンクの前に穴ができてしまうので、シンクの前に立つことができない。
つまり、床下収納庫を一番つけてはいけないところにつけてしまったのです。
そのうち、義母のぬか味噌樽は、冷蔵庫の前に置かれたり、コンロの前にあったり、あちこちに移動し、私の胸はチクチクと痛みます。
12月に入って、心配していた隙間風は、シンクの前に立つ足元から、すうすうとスカートの中に入ってきます。
義母は玄関まで行くと、玄関マットをつかんできて、床下収納庫の上に置きました。




